本文
平成23年度工事監査の結果(市立岸和田市民病院放射線棟増築外工事)
第1 監査の対象
市立岸和田市民病院放射線棟増築外工事(建築)
第2 監査実施日
平成24年1月24日(火曜日)
第3 監査の方法
平成23年度に施工した工事のうち、契約金額が1,000万円以上の中から内容等を勘案のうえ、監査対象を抽出し、設計図書、関係図書等の書類監査と現場監査を関係職員立会いのもと説明聴取を受け実施した。
なお、技術的、専門的立場から社団法人大阪技術振興協会に工事技術調査を依頼し、技術士の派遣を得て実施した。
第4 監査の結果
1 工事の概要
(1) 工事場所
岸和田市額原町地内
(2) 工事請負業者
株式会社 田中工務店
(3) 設計委託業者
株式会社 山下設計
(4) 工事請負金額
315,703,500円(設計金額 354,971,400円)
(5) 落札率(工事請負金額/設計金額)
88.9%
(6) 工事期間
平成23年6月14日から平成24年3月30日
(7) 工事監督員
建設部建築住宅課 主査 生嶋 徹
(8) 工事の内容
ア 規模 敷地面積 22,625.13平方メートル
建築面積 399.93平方メートル(既設病院 9,462.68平方メートル)
延床面積 1,139.20平方メートル(既設病院30,575.34平方メートル)
イ 用途 増築部分 リニアック室、X-CT室、診察室、点滴室、指導研修室、部長室等
既設部分 緩和ケア病棟 病室20室、特殊浴室、食堂、面談室等
ウ 構造 増築部分 鉄筋コンクリート造3階建
(9) 工事進捗状況
計画出来高 70% 実施出来高 55%(1月24日現在)
2 監査結果及び調査内容
(1) 病院概要及び工事目的について
地域がん診療連携拠点病院に指定されている市立岸和田市民病院では、平成20年度に病院のあり方について、学識経験者、公認会計士、岸和田市医師会代表、岸和田市民など6名からなる外部委員会「市立岸和田市民病院あり方検討委員会」を組織し、4回の委員会を経て、平成21年2月にがん医療、救急医療などに関する答申を受けた。平成22年の拠点病院指定の更新時において、国の方針であるがん医療水準の均てん化を目指し、外科的療法はもちろんのこと、放射線治療、化学療法、がん相談、緩和ケアなどの集学的治療を行う施設を目指すため、平成8年度に導入したリニアック(粒子加速器)設備の更新、診療体制の強化、緩和ケア病棟の整備を行うこととした。今回増築の放射線棟には診察室のほかに、1階にリニアック及びX-CT室、2階に腫瘍内科、緩和ケア外来など、3階に各診療科部長の医師執務室を配置する。また、既設病棟6階東側は改修工事により、緩和ケア病棟を新設することとしている。同院には、すでにPET(ポジトロン断層法)設備も備えている。ちなみに泉州地域でPET設備は、市立岸和田市民病院、岸和田徳洲会病院の2箇所、リニアック設備は泉大津市立病院、和泉市立病院、市立貝塚病院、りんくう総合医療センター、府立母子保健総合医療センター、岸和田徳洲会病院に配置されている。(平成22年12月現在)
(2) 工事概要について
工事については概ね設計図の通りであるが、1階のリニアック室の機械の向きが90度回転した配置となった。これは、当初の計画の場合には操作室に向かって粒子線が直射することになり、いかに防護壁があったとしても操作者に直射する方向は好ましくないとの医師の見解によるものである。この結果、防護壁の鉄板及びコンクリート壁が短辺ではなく長辺方向の配置となり、数量増となった。工事費は増額変更予定である。
既存6階の改修工事は6階東病棟を緩和病棟に改修するものであるが、主として部長室を移転した後に改修工事を実施するつもりであった。しかし、当初に予定していた場所に移転できなくなったため、増築棟の3階に移転する必要が生じた。その結果、増築棟の完成工期である3月30日以後に部長室を移転しなければならなくなり、現在も改修工事は着工できず、4月から着工、5月末完了見込みである。平成23年6月14日に工事請負契約締結後、当初は平成24年3月30日完成の予定であったが、上記の理由で5月末まで工期延伸を予定しているとのことである。
放射線棟増築工事は、平成24年1月20日に上棟している。実施工程表はバーチャート工程図を作成しており、工程上のイベントの日程を記入しているが、実施日を赤線で示したもので工程管理しており、ほぼ1ヶ月遅れとなっている。計画工程では2月末に工事を完了する予定であったが、3月末完了となる。リニアック機器の搬入据付は4月からであり、施設供用は試運転調整後の7月からなので、1ヶ月遅れているが病院施設運営には間に合うということであった。なお、主要な外注製作物の手配は完了しているとのことであった。電気設備、空調設備、衛生設備及び医療機器など、別途業者との工事調整も定例会議にて行っているとのことであった。LCC(ライフサイクルコスト)については特に検討はしていないが、これまでの病院施設の運営管理状況をもとにした費用は把握しており、予算のなかで対応する方針としている。
(3) 設計図書、特記仕様書等に関して
基本設計の前提として、現状の利用者の年次変化や居住地域の統計、放射線治療器の故障や更新時の地域連携などの運営方針と施設・設備の関連についても調査が行われていた。大きな電力が必要となるが、既設棟からの送電を屋上に設置された受電設備により処理する計画としていた。停電時の非常用発電設備も既設棟に配備され、ディーゼルエンジンにより48時間発電可能とのことであった。
耐震設計については、地域係数Z=1.0、重要度係数I=1.25とし、層せん断力を決定するその他の計数 Rt 、Ai 、Co は標準の数値を採用していた。
リニアック室周りが厚いコンクリート壁、床に囲まれて剛性が大きくなり、剛心と重心が偏心して地震時にねじれが発生しないように壁柱の設計を考慮しているとのことであった。
昨年の東日本大震災でも経験した津波の危険性について、大阪府指導では津波高さ6.8mを想定しているが、病院の敷地はO.P.+17m以上であるので、当面は問題ないとのことであった。
リニアックによる放射線防護について、放射線防護設備工事を株式会社田中工務店から請け負った日本放射線防禦株式会社の計算書に、最も壁透過量が多い北東面外壁で、3ヶ月の最大値752.194μSv/3月 が算定され、安全基準値の1,300μSv/3月 以下であることが示されていた。また、放射線の反射による室外への漏洩の検討もなされており、出入り口ドアの枠内部の鉛による遮蔽設計図も示されていた。
シックハウス対策について、計画通知時の仕上表により建築材料を確認しているほか、使用材もF☆☆☆☆であることを施工中も監督職員により確認していた。換気もすべて24時間換気とし、VOCについても内装工事完了後引渡し前に測定を予定している。接着剤についても、屋外の仮設倉庫での保管を予定しているとのことであった。
設計図面は意匠図、構造図とも必要枚数、記載内容とも問題なく、詳細についても質疑回答や打ち合わせ記録の照合により問題はないと判断した。
特記仕様書の記載事項について、矛盾や齟齬がないかを調べたが、問題はないと判断した。
(4) 積算等に関して
ア 数量積算者は設計者の株式会社山下設計であった。
イ 積算の基準は下記の通りであることを確認した。
建築積算研究会制定「建築数量積算基準・同解説」
ウ 値入れは委託設計事務所が行い、市担当者が見直しをしていた。単価や分掛は、「公共建築工事積算基準」及び市販の刊行物である「建築コスト情報」、「建築施工単価」、「積算資料」によっていた。上記の資料に単価が記述されていないものについては、メーカーの見積書を原則3者からとり、最低のものに低減率をかけたものを採用しているとのことであった。
上記の調査により、積算について問題はないと判断した。
(5) 入札、契約関係等に関して
以下の事項について質問調査を行った。
ア 入札参加業者の見積り期間
平成23年5月24日から平成23年6月8日の16日間(うち土日4日間)
イ 質疑状況及び件数
質疑はなかった。なお、入札では5者が応札したが、そのうち4者があらかじめ公表された最低価格で応札し、そのうち1者がくじにより落札者となった。
ウ 監理技術者、主任技術者の資格
監理技術者資格者証、1級建築施工管理技士の免状の写しを確認した。
エ CORINS「工事カルテ」の提出について
写しが保管され、適正であることを確認した。
オ 前払金保証について
西日本建設業保証株式会社の保険証書を確認した。
カ 工事の履行保証について
東京海上日動火災保険株式会社による保証書を確認した。
キ 設計者の選定について
株式会社山下設計は既設病院の設計者であり、過去2回の増築工事の設計も行っている。このときに設備も含めた全体計画の整合性を考えて設計しており、今回も株式会社山下設計と随意契約していた。設計費は18,900,000円であり、別途工事の設備工事も含めた工事予算額558,000,000円の3.387%であり、妥当であると判断した。
ク 設計変更について
リニアック設備の粒子線の放射方向が、当初の設計では隣室の操作室の方向を指向していた。前述(3)の、日本放射線防禦株式会社の計算書でも示すとおり、たとえ厚さ450mmの鋼板及び600mmのコンクリートの遮蔽壁であっても粒子線透過量はゼロではない。この点について、業務として操作をする者の安全に関して検討された結果、リニアックの向きが90度回転することになった。これにより、防護壁の長さが大きくなり増額変更を予定しているとのことであった。その他は大きな変更はないということであった。
上記により、入札、契約に関する問題はないと判断した。
(6) 施工管理・品質管理・施工監理等に関して
ア 施工計画書について
総合施工計画書、総合仮設計画書、各種工事に関する個別施工計画書が作成されていた。内容確認及び審査済の手続きは適正に行われており、全般に問題ないと判断した。土留め工事計画についても調査したが、問題はないと判断した。
残土処分についての受け入れ承諾書が添付されており、適正であった。
イ 使用材料について
躯体工事使用材料及び仕上げ工事材料の確認は、適正に行われていた。
ウ 実施工程表について
施工者作成のバーチャート工程表に、工程上のコンクリート打ち込みなどイベントの日を記入しており、実施日との差異を照合することにより工程を管理していた。クリティカルパスは表示されていなかったが、実施工程においての遅れは把握しており、原因の調査及び対処方針も策定されていた。外注製作物の手配もほぼ完了しているとのことであった。放射線棟の供用に関して問題はないとのことであった。
エ 建設副産物の扱いについて
運搬収集・中間処理・最終処分の契約書の写しを確認した。また、再生資源利用計画書が作成されていた。マニフェストも整備されており、適切であると判断した。
オ 建設業退職金共済組合への加入について
元請業者が建設業退職金共済の証紙を購入した領収書を確認した。
カ 施工体系図について
適切に掲示されていた。
キ 工事監理・監督について
工事監理は建設部建築住宅課の直営により行われ、監理業務分掌区分は、建築工事、設備工事で明確に区分されていた。
共通仕様書は、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「公共建築工事標準仕様書 平成22年版」、監理指針は、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「建築工事監理指針 平成22年版」としていた。
施工業者から、月間工程表及び週間工程表などの提出を受け、工程監理を行っていた。工事打合せ会として、毎週木曜日の午前に各施工業者、病院関係者、市担当者が出席した工程会議が行われ、議事録も整備されていた。厚生労働省医政局(窓口は大阪府医療対策課)との平面詳細図を元にした間仕切りや廊下などの寸法確認調整や、実際に使用する医師・看護師の意見もここで聴取調整しているとのことであった。また、施工業者への指示書・連絡書、試験・検査などの段階確認の立会い記録・写真などが良好に保管・整備されているのを確認した。
ク 特記仕様書に記述されている個別の工種工事の監理について(書類調査)
(ア) 仮設
官庁提出書類(労働安全衛生法第88条など)を確認したが、問題はなかった。建物位置、設計GLの確認状況の写真を確認したが、問題はなかった。適用事業報告などの下請業者を使用して建設工事を行う際の労働基準監督署への届出書類が整備されていないので、是正を提言した。
(イ) 土
掘削土は場外搬出であり、埋め戻しは掘削土を使用するものであった。埋め戻し土の転圧状況の写真を確認したが、問題はなかった。山留めでは、建屋近接部では親杭横矢板工法、その他は鋼矢板工法としていたが、敷地境界から距離もあり、設計GLが道路地盤より高いこともあり、掘削底から45度の影響範囲を考慮しても問題はないと判断した。
(ウ) 地業
杭工事専門業者である三谷セキサン株式会社の杭工事施工報告書及び写真より、支持層の確認を適正に行っていたと判断した。
(エ) 鉄筋
鉄筋材料証明書、入荷札及びロールマーク記録写真より材料が適正であることを確認した。圧接作業者の技量証明書、圧接部の超音波探傷報告書より圧接部の品質が適正であると判断した。配筋検査は、施工者の自主検査後、監理者検査がなされ、検査記録・写真ともに整備されていた。
リニアックの放射方向が変更になったことに伴い構造の変更が行われた部分について、一般的に変更があった部位ではミスが発生しやすいので、どのような予防処置を施したか確認したところ、変更は工事期間の初期段階であり、設計図をすべて変更図に差し替えたということであった。
(オ) コンクリート
配合報告書と設計図書を照合し、適正であることを確認した。設計基準強度と調合強度との補正値における、強度割り増しS値の扱いについて、適切に管理されていた。単位水量はすべて185kg/㎥以下であった。生コンの試験書類及び立会い記録写真、打ち込み状況の写真、強度試験結果などは適正に保管整備されており、圧縮強度はすべて満足していた。
ジャンカ補修の写真もあった。打ち込まれたコンクリートについては、ジャンカやコールドジョイントがないことが理想であるが、現実には発生することがあるので、むしろ、発生位置、状況、補修や再発防止などの是正・改善を記録するQC手法により、品質を改善すべきであることを提言した。
(カ) 鉄骨
入口庇を取りやめとする予定であるので、鉄骨工事は現段階では該当はない。この工事費は減額を予定しているとのことである。
(キ) ALCパネル、押し出し成形セメント板など
今回の技術調査では、特に述べる事項はない。
(ク) 防水
今後施工を予定している。材料の確認方法について、納品書、入材及び使用後の風袋の記録写真も整備するとともに、使用数量を把握するために、部位別の所要数量と使用数量を表にしておくことを提言した。
屋上アスファルト防水についても、特にドレイン廻りからの漏水が多いことを考慮し、排水口を塞いでの水張り試験を提言した。
アスファルト防水は10年の保証書が提出されるとのことである。なおシーリングの保証期間は、ポリサルファイドが3年と特記されている。
(ケ) 石
今回の技術調査では、特に述べる事項はない。
(コ) タイル
外装タイルの剥落防止対策については、コンクリート下地をジェットウォッシャにより水洗したのち、タイル下地モルタル塗りを予定している。まぐさタイルには引き金物の取り付けを予定しているとのことであった。伸縮調整目地は躯体から目地をとることとしていた。タイル工事完了後、接着力試験実施を予定しているとのことである。既設建屋で使用している外装タイルと同等のものであるが、含水率を調査し、凍害に対して問題がないか確認しておくことを提言した。
(サ) 木
金属製建具枠の額縁に使用されるのみであり、今回の技術調査では、特に述べる事項はない。
(シ) 屋根及び樋
屋根はアスファルト防水の上に押さえコンクリートとしているが、成形品である伸縮目地を使用することとなっていて、割付図を作成予定である。外部たて樋は、白ガス管となっていたが、VP管に変更されている。既存の建屋はすべてVP管であり、増築棟もこれに合わせることとしたためである。この工事費は減額変更予定とのことである。
(ス) 金属
地震での天井落下事故については、1階の天井ふところでは1.5m以上の箇所があるので、必要な部位での振れ止め施工を予定しているとのことであり、問題ないと判断した。
(セ) 左官
書類調査上での特記事項はない。
(ソ) 建具
外部に面する建具についての耐風圧性、気密性、水密性の確認はできていた。重量シャッターには障害物感知装置がつけられていた。放射線施設関連の金属製建具の防護処置については、前述の日本放射線防禦株式会社がこの範囲の金属製建具工事を施工することになっており、問題はないと判断した。
(タ) カーテンウォール
今回の技術調査では該当はない。
(チ) 塗装
VOC放散量が少ない、F☆☆☆☆の塗料が選定されていた。塗料・シンナーの保管状況は、屋外に専用倉庫の設置を予定しており問題はない。使用量のデータについても、部位別使用量の表と、風袋の記録を提言した。
(ツ) 内装
内装材・接着剤について、VOC放散量が少ない、F☆☆☆☆のものを選定する予定ということであった。使用材料審査時に、カタログによりアスベストが使用されていないことを確認する予定ということであった。床材でスリップ事故防止を検討しているか確認したところ、診察、治療諸室、廊下で検討しているとのことであったが、既存病院施設と同等の床材の採用を予定しており、問題ないと判断した。
(テ) その他
外装タイルについて、景観に影響の少ない箇所の外装ではタイルを使用しない等のコストダウンが図られていた。
リニアックを点検する際に床下ピット内部に入って行うことがあるが、他の施設でこのときにリニアックを運転したため、点検者が被爆した事例があったので、点検時の安全注意事項を徹底する予定とのことである。
防火区画が適切に行われているかどうか、工事中に監理者が確認予定である。設備、放射線防護工事との関連で、遮蔽用のコンクリート壁には電線管やコンセントボックスの打ち込みは不可であるので、LGS壁を増設したほか、設備用の開口にも調整を行ったということであった。
(7) 現場調査における所見(施工状況、安全対策等)
建屋の躯体は最上階及びパラペット、設備配管立ち上がりまで完了し、3階の壁などの側面型枠撤去を開始し、2階では支保工の撤去後の片付けを行っていた。3階では、既存建屋との渡り廊下部分の壁型枠の組み立てを行っていた。1階から間仕切りLGS工事、金属製建具の取り付け、天井内設備工事が始まっていた。
特定建設作業の届出書類、日々の安全書類は整備され、1月24日現在、延べ労働時間は15,296時間であり、無事故とのことである。
労働安全衛生法第88条による労働基準監督署への足場、支保工の届出も行われていた。
現場での技術調査では以下の事項について提言を行った。
ア 書類事項
工事を着手した場合に、適用事業報告、特定元方事業報告、統括安全衛生責任者選任報告などの労働基準監督署への届出書類が確認できなかったので、必要な書類を確認整備することを提言した。
イ 品質事項
(ア) 屋上には水下となる北東側に2箇所横引きドレインが打ち込まれていたが、この間のパラペット立ち上がり脚部に水たまりを発見した。アスファルト防水においては、防水下地で水勾配をとるべきであり、防水の耐用年数を長くするためにも、モルタル塗りにより水勾配の是正を行い、水たまりがない状態で防水工事を開始することを提言した。
また、水張り試験の際に、ドレインのパイプをゴムまりなどで閉鎖する方法で、ルーフドレイン廻りの防水層端部からの漏水がないか確認することを、現場でも提言した。
(イ) 設備配管立ち上がり小屋の防水立ち上がりよりも上部の、屋上床から1m程度の部位にコンクリートのコールドジョイント様の箇所が発見されたので、止水を確認してから仕上げ材の施工をすることを提言した。
(ウ) 同上の小屋からは、設備配管類が庇下の壁を貫通して屋上機械スペースの機械に接続されるが、この配管を伝った雨水が壁貫通部から内部に浸入して、下階への漏水事故を引き起こす事例が散見される。別途設備業者と水仕舞の詳細をよく打ち合わせ、漏水を予防することを提言した。
(エ) 2階から3階への屋外階段の段床コンクリートは、2階床下部分で打ち継いでいるが、この部分におがくずなどのゴミがたまっているのが観察された。階ごとの打ち継ぎ目地部にもおがくずが散見されたので、除去是正することを提言した。
(オ) 1階の室内では、外壁室内側に断熱材として発泡ウレタンの施工を行っていた。一般的には、外壁躯体を貫通するダクトや、窓の額縁取付けが完了してから施工すれば、開口部廻りの断熱材の施工が問題なくできるが、当工事では工程の都合上、断熱材の施工を先に行ってからダクトや建具取付けを行っていたので、開口部廻りの断熱処理が完了していることを確認してから仕上げ工事を行うことを提言した。
(カ) 金属製建具周囲のモルタル充填や、外装タイル下地で左官工事によるモルタル塗りのため、左官のコネ場を設置していたが、モルタル配合時の富配合、貧配合の使い分けや、防水材の添加などの配合表を表示し、左官工に注意喚起することを提言した。(下塗りでは接着力を確保するために、セメント量が多くなる富配合、上塗りでは接着力は下塗りほど必要とされない代わりに収縮ひび割れを防ぐ目的で貧配合とすることが、仕様書に規定されている。)
ウ 安全設備他
(ア) 3階室内から、渡り廊下に移動する部分は、躯体に600mm程度の隙間があるが、渡りとなる通路床の外部足場ブラケットの横の手摺がなく、墜落の危険があるので、至急是正されたい。
(イ) この部分のエクスパンションジョイントの床も巾600mmの隙間があるが、通路床仮設設備が巾600mmの型枠パネルを渡しただけとなっていて、パネル両側から2階の床への墜落や、物が落下する危険があるので、改善を提言した。
(ウ) 屋外階段3階の踊り場は、現在屋上の屋根スラブの支保工があるが、支保工撤去後に床からの立ち上がりがないので、本設手摺施工まではこの部分から墜落を防止するための仮設手摺が必要であることを提言した。
(エ) 室内で天井内設備工事を別途設備業者が行っているが、高さ2.4m程度の脚立を使用していた。脚立を使用する場合の高さは2.0m以下とされているので、別途工事といえども、安全確認を指導することを提言した。
(オ) リニアック室では床点検孔用の開口部があり、厚さ12mmの型枠用合板を開口部の上に置いていたが、強度不足であり、簡単に移動するので開口部養生としては危険である。また、点検孔用開口部からピット内に入って設備業者が作業をしていたが表示をせず、赤色の樹脂性円錐形材(カラーコーン)を1個置いているのみであったので、マンホール養生用の屏風状の表示を行うことを提言した。リニアック室は窓がないため仮設電気のブレーカーが落ちたときに暗くなりやすく、墜落転落の危険性が高いので、特に注意することを要請した。
エ 一般的注意事項
(ア) 3月末に工事完了のためには、仕上げ工程が錯綜する可能性が高い。工程をよく調整し、手戻りがないように段階確認を行っていくことを要請した。
(イ) 1階は今後仕上げ工事の種類が多く、材料置き場や通路などの調整が必要となるので、整理整頓に注意していくことを提言した。
(ウ) 冬場で空気が乾燥するので、サンダー・高速カッターや溶接などの火気使用に注意し、消火器なども適宜配置することを提言した。
(8) 結び
現状躯体工事は大きな問題なく上棟している。今後、仕上げ工事、設備工事、医療機器工事などとの調整をしながら建築工事を行うので、工程的にはこれまでよりも注意事項が増えると思われる。しかしながら、市民の健康を守る施設の工事中に災害が発生するのは不幸なことであるので、無事故無災害で完工され、関係者に喜びを運ぶことを心から願い報告とする。