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岸和田のむかし話11 桃と赤鬼(包近)

印刷用ページを表示する 2009年3月3日掲載

文 足立俊

 むかしなぁ、岡山から包近(かねちか)の辺りはなだらかな草の丘でなぁ、桃は1本もなかったころのことや。

 ナミはひとりで春菜(はるな)摘(つ)んでた。ナズナ・ハコベラ・ホトケノザ、籠(かご)の中は七草(ななくさ)のええ香(かお)りでいっぱいやった。
 帰ろ、と目ぇ上げてびっくりした。鬼が3匹立っちゃぁるんやもん。いちばん大(おっ)きな赤鬼がニターッと牙(きば)むき出して、
 「お前、えらいべっぴんやなぁ。なんて名ぁや?」
 牛のよな太(ふっと)い声で尋(たん)ねた。
 「うち、ナミ」
 「ナミ、お前、俺(おら)の嫁(よめ)になれ」
 とたんに、後(うし)ろで青鬼と黒鬼が、
 「そうや、兄きの嫁になれ!」
 「決(き)ぃまった、決(き)ぃまった!」
 て、おがった。
 「うち、いやや」
 ナミは泣きもって家へとんで帰った。

 3匹の鬼はナミの家までおしかけてきて、どうでもナミを嫁にくれ、いうて、聞けへんかった。親どもは土間(どま)に額(でこ)をこすりつけて鬼にたのんだ。

桃と赤鬼の挿絵1

 「堪忍(かに)してくれぇ!ナミはまだ子供や!」
 「年(とし)、なんぼや?」
 「13、いや、12や・・・・・・」
 「そら、ちっと若すぎるなぁ」
 赤鬼は、えらそに腕(うで)組んで、
 「ほな、3年待っちゃろ。夏祭りの太鼓(たいこ)聞いたら、嫁取(よめと)り行列こしらえて迎(むか)えに来るでぇ」
 「よう覚えとけよ!」
 弟鬼どもがすごんだ。
 「約束破ってみぃ、村の娘ども、みぃんな攫(さろ)て、食(く)てまうぞ!」
 やっと鬼は帰った。

 「えらいことになったなぁ」
 親子3人抱(だ)き合(お)うてないてるとこへ、お寺の五郎がやってきた。
 五郎は孤児(みなしご)で、小(ちっ)さい時分(じぶん)から和尚(おじゅつ)さんに引き取られて育ったけど、元気のええ若い衆(しゅ)や。わけ聞いて、目ぇ釣(つ)り上げた。
 「悪いやっちゃ。俺、捕(つか)まえて退治(たいじ)しちゃる!」
 「やめとき。鬼に逆(さか)ろうてみぃ、八(や)つ裂(ざ)きにされてしまうでぇ」
止めるのも聞かず、とび出した。
 丘越え、野越え、林をぬけた。牛滝(うしたき)の川渡(わた)り、巻尾(まきのお)山のふもと走って国分(こくぶ)の峠(とうげ)にさしかかったころ、日が暮れた。
 ヤブの向こうに火が見えた。焚火(たきび)や。用心しぃもって近付くと、煙の中に大(おっ)きな鬼の影(かげ)が浮かんでた。
血ぃのしたたる猪肉(ししにく)さかなに瓢箪(ひょうたん)の濁酒(どぶざけ)ぐびぐび飲んで、青鬼がおがった。
「兄きぃ、べっぴんの嫁さん見つかって、よかったなぁ。次は俺(おら)たちの番やでぇ」
「おう、わかってらぇ。あの村ぁ、桃が一本もないよって、なんぼでも行けるがな」
「そやっ。桃みたいなもん植えられたら、もう、うかうかと行かれへん。桃の実ぶつけ
られたら死んでまう」
 3匹の鬼どもは、おっとろしげに顔見合わせた。
 ―そうか!―
 五郎は大(おっ)きくうなずいて、その場を離(はな)れた。

 「桃の苗木(なえぎ)が欲しいて?ほな、紀州(きしゅう)の知り合いに仰山(ぎょうさん)作ってる人がおるよって、たのんじゃろ」
 和尚(おじゅつ)さんに手紙書いてもろて、五郎は旅に出た。
 「ナミよ、待っていや。桃の木いっぱいお前の家の周りに植えて、鬼めら追っぱらっちゃるでぇ。大事なお前を鬼なんぞに盗(と)られてたまるか!」
 紀州についた五郎は桃屋敷(ももやしき)ちゅう大(おっ)きな家に住み込んで、桃作(ももづく)りを手伝(てつと)つた。
 朝早(はよ)うから日暮れまで、草むしって、肥(こ)やしやって、虫取った。                薄桃色(うすももいろ)の花咲いて、やがて小(ちっ)さい実がなって、ひと雨ごとにふくらんだ。1番肥(ご)え、2番肥(ご)え、3番肥(ご)えと肥(こ)えやった。大(おっ)きな桃をとるにゃあ余分な実ぃは摘(つ)まんならん。鳥に食われんように袋(ふくろ)もかぶせんならん。
 五郎はそんな仕事をひとつひとつ、しっかり胸にきざみ込んだ。

 空いっぱいにうろこ雲が広がる秋になった。
 苗木入れた籠背負(かごせお)て、五郎は帰り道を急(いそ)いだ。
 「ナミ、もどったでぇ。桃の苗木や。はよ植えよ」
 神於山(こうのやま)のもみじが日に映(は)えた。ナミの頬(ほお)も赤(あこ)なった。
 ふたりして畑作った。
 野分(のわ)けが吹きはじめるころ、やっと全部の仕事が終わった。
 一本も枯(か)らしたらあかん。どうでもこの冬越ささんならん。毎日見廻って水やった。
 身ぃ切るよな吹雪(ふぶき)が吠(ほ)えてる夜遅(おそ)うに、五郎はナミを畑で見付けておどろいた。
 「なにしてるんや。かぜひくやないか」
 ナミは、凍(こご)えそな苗木を見つめて、目にいっぱい涙を溜(た)めていた。
「うち、死んでも鬼の嫁にいくのいやや。苗枯れたらどないしょう」
 五郎はクシュンと鼻すすった。
 「よっしゃ。藁(わら)で囲っちゃろ。心配いらん。枯らしてたまるかぇ!」

 春になった。桃の木は幹もしっかり太(ふと)なって、ぐんぐん枝のばし、葉ぁも茂(しげ)ったが、ナミと五郎はびくびくしながら夏祭りの太鼓(たいこ)を聞いた。
 ―あと1年。それまでに、どうでも桃を実(みの)らさな・・・・・・―
 また秋が来(き)、寒(さぁむ)い冬が去んで、3年めの春。
 とうとう桃の花咲いた。いっぱい、いっぱい実がなった。

 「何(なん)なら、あれぁ?」
 「桃や。村間違(まちご)たんちゃうか」
 鬼の嫁取り行列は丘の上で止まってしもた。
 ナミの家は、屋根も見えへんほど桃の木が茂(しげ)ってるんや。
 「俺(おら)の嫁さんはどこなら?3年も待ったんやぞぉ。ナミー、ナミーッ」

桃と赤鬼の挿絵2
 
 赤鬼は火だるまみたいになって駆(か)け出した。
 ほかの鬼たちも、どっと村へ駆(か)け込(こ)もうとした。
 と、バラバラバラ・・・・・・雨あられと桃の実が飛んできた。赤(あこ)なった大(おっ)きな桃の実や。
 「ギャーッ、桃や、桃やっ」
 逃げも避(よ)けもでけへん。おでこにビシッ、お尻(しり)にビシャッ、胸(むな)いたにバシーン!
 「アッツ、ツツ・・・・・・」
 「イテッ、テ、助けてくれぇ」
 あわくった鬼どもみんな、命からがら逃げ散ってしもた。
 「やった、やったぁ」
 「やったぞう」
 木陰(こかげ)から飛び出したんは、五郎、ナミ、お父(とう)にお母(かあ)、助(すけ)っ人(と)にきた若い衆(しゅ)や。
 鬼どもを追い散らした後(あと)、みんな、ナミの家に集まった。
 「おう、こら、うまい」
 みな、桃かじった。
 「こないにうまい桃、はじめてや」
 「いやぁ、ほんまや」
 「ほんまにうまいぞう」
 「よかったなぁ、ナミ」
 「おおきに、五郎」
 桃の木陰(こかげ)で、ふたりはしっかりと手ぇ握(にぎ)り合(お)うた。
 その秋、五郎とナミはめでたく祝言(しゅうげん)あげた。
 それから、岡山や包近(かねちか)の村じゅうどっこでも、いっぱい桃を作るようになったんやてぇ。


※ この「岸和田のむかし話」は市制70周年を記念して平成4年11月に刊行された本をWeb化したもので、岸和田に伝わる昔話や、発刊時に創作された話を収録しています。
あくまでも昔話ですので、必ずしも史実に基づいているものではありません。

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