岸和田市市制施行100周年記念誌
未来へのバトン66-67ページ

未来の食卓に残したい岸和田の郷土料理

岸和田の郷土料理の魅力やそれにまつわるエピソードを、郷土料理研究家の藤村加代子さんに伺いました。イワシやエビジャコ、水ナス、大豆など、昔から食べられてきた食材にも改めて注目してみてください。

藤村さんの写真

郷土料理研究家
藤村 加代子さん
ふじむら かよこ
昭和16年(1941)岸和田市生まれ。郷土料理の第一人者。土井 勝さんの料理教室に勤めたのち、郷土料理の教室を開講。NHK『きょうの料理』への出演ほか、地域で数々の料理関連のイベントに携わる。

JAいずみのが主宰する「野菜レシピコンクール」の審査委員長も長年務める

岸和田は古くから漁業・農業が盛んで、私が幼少の頃から、海山の食材があふれていました。なかでもイワシは大量にとれ、天日干しされたイワシが浜辺一帯を覆っていたものです。水ナスやニンジン、タマネギ、春菊、タケノコ、桃などの青果物も豊富です。さらに地びき網にかかるエビや小魚を干した保存食「ごより」でだしをとったり、水ナスの古漬けを再利用するメニューがあったりと、郷土料理には先人たちの工夫がいっぱいです。栄養価も高い、岸和田の食材の豊かさにぜひ気づいてください。

旨さの秘訣は鮮度!昔は夏の食卓の大定番
イワシのにぎり寿司

今も昔も、イワシは岸和田の庶民の味。天ぷら、ショウガ煮、梅煮とさまざまな調理法がありますが、とれたてでないとダメなのが、にぎり寿司。初夏になるとヒラゴと呼ばれる、皮の軟らかい小さなイワシを使ったお寿司が日常的に食卓に並びました。朝どりで手を噛まれるくらい元気なイワシが大量に入ったトロ箱(魚を入れる箱)を前に、両親から魚のさばき方を教えられ、私も5歳の時からイワシを次から次へとさばいたものです。

開いたイワシを濃い食塩水にくぐらせてザルにあげ、約40分おく。その後三杯酢に約5分漬ける。イワシに青ネギとショウガ、すし飯をのせて巻き、軽く握って完成

イワシは7つの斑点が特徴だが、成長前のヒラゴの斑点は5つほど。1尾まるごと使って酢飯をくるむとは、ぜいたく!

大昔からSDGsを実践する、郷土料理の雄
じゃこごうこ

ごより豆と並ぶ人気の郷土料理で、古漬けと生のエビジャコを甘辛く炊いたもの。昔はどこの家でも土間にナスやキュウリを漬けた大樽があり、じゃこごうこは長く漬け過ぎた古漬けを活用する「始末の料理(食材を使い切る調理法)」でした。今でいうSDGsのかなり先駆け(笑)。かつては日常食でしたが、今は知らない方も多いのでは。古漬けの風味がほどよい酸味となった奥深い味わいで、おにぎりや茶粥があれば大満足の一品になるほど美味です。

塩抜きしたナス・キュウリをだしで煮て、生のエビジャコ、砂糖、醤油、ショウガを加え、さらに煮たもの
ナス・キュウリの画像

ナス・キュウリの古漬けは、水を替えながら2、3日浸してヌカ成分と塩を抜くのが重要

岸和田で一二を争う人気の郷土料理
ごより豆

「ごより」はかつて漁師の妻たちが、網にかかったネブトなどの小魚やエビジャコを後でより分けて乾燥させて、小遣い稼ぎに売っていたという干物。そのだしをべースに生の豆を炊くごより豆は、今でもイベントなどで作ると「懐かしい!」とご年配者に大人気で、アッという間になくなります。豊富だった昔に比べ、今ではごよりは高価になり数も少なくなってきたので、イリコで代用してもOK。若い方なら豆を硬め、ご年配者なら軟らかめなど、好みで煮てみてください。

生の豆に「ごより」から出た濃いだしが染み込む。味付けは砂糖・醤油・赤唐辛子のみ
ごよりの画像

頭をとって乾燥させたエビジャコとネブトを集めた「ごより」。そのまま電子レンジで温めればおつまみにも

ごより豆のレシピ

今や世界へ羽ばたく「泉州水なす」の味
水ナスの浅漬け

水ナスは、タマネギや春菊(きくな)とともに岸和田を代表する野菜。特に泉州水なすは知名度が高く、海外でも人気です。昔は春から秋にかけて家の中にゴロゴロあり、焼いたり茹でたり、さまざまな調理法で食べていました。漬物にする家も多く、漬かり過ぎたら「じゃこごうこ」にしたり。みずみずしい果肉が喉を潤し、皮も軟らかいので、お年を召された方にも最適。浅漬けは漬物というより、前菜やサラダとしていただくのがおすすめです。

米ヌカと塩、水を混ぜたヌカ床に古釘を入れ、塩を軽くまぶした水ナスを約12時間浸ける。ヘタまでおいしい
水ナスをさいている画像

色が変わりやすいので、食べる直前に手でさくのがポイント!

素朴な大豆餡の団子でその年の豊作を祈願
くるみ餅

団子を餡で「くるむ」ことから「くるみ餅」、クルミは入っていません。大阪・泉州では昔から田畑の耕作が盛んで、田んぼのあぜに植えた大豆を使い、一年の豊作を祈って作っていたと思われます。泉州の代表的なデザートですね。私が幼少の頃は、小豆餡の団子と並べて紅白にし、ハレの日のおやつに出されることもありました。大豆餡に抹茶を混ぜてもおいしいですよ。

きな粉より大豆の風味がさらにダイレクトに感じられる。かき氷にのせてもおいしいそう

昔は大豆をすり鉢でつぶしていたが、今はフードプロセッサーで簡単に。大豆の水煮や切り餅を使ってもOK

くるみ餅のレシピ

だんじり祭の日にいただくハレの日料理

秋のだんじり祭のメニューといえば、ワタリガニ。最近は量が減りましたが、かつては宴会で茹でたてを客人に出すほか、トロ箱に入れて玄関先に置き、通りすがりの人に大盤振る舞いする家もあったそう。また、いわゆるおでん「かんとだき(関東煮)」も、祭に参加する家族や客がいつのタイミングでも食べやすい、ハレの日には欠かせないメニューです。

ワタリガニの画像
かんとだきの画像