岸和田市市制施行100周年記念誌
岸和田のいまむかし30-31ページ

岸和田で創業から100年以上。この店、あの会社

創業から100年以上を経た今も、岸和田で活躍し続ける人々の暮らしに寄り添うものを提供し続けるお店や企業があります。
それぞれの代表に、昔から代々受け継ぎ大切にしていることや岸和田で店を構え続ける思いについて伺いました。

創業から204年

井坂酒造場 〈稲葉町〉

十代目蔵主井坂佳嗣さん
  • 地元の人々にずっと愛される岸和田の地酒を造り続けたい。井坂さんは平成29年(2017)に黄綬褒章を受章。奈良県にある「三輪明神」への毎月1日の参拝を欠かさないそう。岸和田のお気に入りは「酒蔵から眺める山々の風景」だとか。
  • 木桶を使い米を蒸す工程は200年変わらない。酒造りに必要な酵母や菌は生き物のため変化が常。五感で見極める人間の力が欠かせないそう(撮影:津末良昭さん)

創業は江戸時代の文政元年(1818)なので、200年以上、技術と体力が必要な「 かん づく 寒造り」という昔ながらの製法でのじょう醸ぞう 造を続けています。昔、岸和田は米がよくとれて、その米を使った酒造りが盛んでした。平成の中頃までは毎年秋になると、兵庫県の たじま 但馬などから とうじ 杜氏(=酒造りの職人)の皆さんが集団で岸和田を訪れて春まで住み込みで酒造りを行っていたんです。しかし、高齢化や継承者問題などから、その形は消え、岸和田に多数あった酒蔵がへいぞう閉蔵してしまいました。うちでは息子や地元の若者たちが、伝統を絶やしたくないという思いや酒造りの技を継承してくれたので、とてもありがたく思っています。
岸和田の地酒は希少です。ぜひ進物用にも使っていただきたいですし、何よりこれからも、地元の方々に大切な日に楽しく飲んでほしいです。

  • 全国新酒鑑評会で金賞受賞歴を持つ
  • 岸和田にちなんだ「だんじり」や、「六甲おろし」などの銘柄も揃う。昔、岸和田の酒は氏神様に供えたあと、残った分を地元で楽しむものだった

逸品 純米大吟醸 三輪福 米の華 ほぼ地元で消費される希少な岸和田の地酒として人気。「三輪福」の名は、酒造りの神様を祭る「三輪明神」から特別に使用を許されたそう。山田錦を50%精米して使用していて、豊かなコクと軽い甘さ、フルーティーな香りがあり、余韻を楽しめる。

創業から103年

株式会社田中家具製作所〈荒木町〉

三代目 代表取締役社長田中由紀彦さん

昭和中頃、春木旭町にあった「田中家具製作所」の店頭風景

田中社長は、市制施行90周年の際に岸和田市で行われた『NHKのど自慢』にも出場。おもに販売や広報を担当し、弟の専務・田中美志樹(よしき)さんが製造現場をまとめている

当社は岸和田で大正8年(1919)に創業し、以降100年間、材木選び、製材法、組み手加工、蝶番の両掘り、密閉度、強度、精巧な美しさなどにこだわるきり だん す 桐箪笥作りを続けてきました。現在も伝統工芸士5名が所属し製造に従事しています。
日本で最初に桐の箪笥が広まったのは江戸時代中・後期の大阪といわれています。着物を大切に保管できる収納具として重宝され、婚礼家具の代表格になり、より上等の桐箪笥が求められるようになって、この大阪泉州には一大産地が形成されました。今もその品質は全国に知られ、「大阪泉州桐箪笥」は伝統工芸品として国に認定されています。
私は「岸和田といえば桐の箪笥」という文化を守りたい。桐の箪笥は、汚れたり いた 傷んでも伝統の手法で「洗い替え(=修復)」すれば、新品同様に蘇って次世代にも受け継いでいただける家具です。SDGsがうたわれる昨今。モノを大切に使い続けることのすばらしさを伝え続けていきたいです。

  • 田中家具製作所は、その家具の美しさと技術で、皇室・高円宮家の婚礼家具の桐箪笥の制作も担当。岸和田市のふるさと納税の返礼品としても多彩な品々を出品している
  • 桐の中のアクを抜くため、雨にあてては乾かす「自然乾燥」を徹底し2~3年の時間をかける。銀灰色の木肌になるとアクが抜けたサイン。大正時代から変わらぬ大変な労力と時間が必要な工程

逸品 初音の家具 大阪泉州総桐箪笥 最高級の桐材を使用した岸和田を代表する伝統工芸家具。組み手の数が多く、堅牢な作りと繊細な美しさを併せ持ち、密閉性、耐火性、調湿性、防カビ・防虫性に大変すぐれている。写真は右戸から左戸へと螺鈿(らでん)や蒔絵(まきえ)が連なる同社自慢の逸品。