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報道発表 第32回 濱田青陵賞受賞者の決定

印刷用ページを表示する 2019年7月26日掲載

概要

令和元年6月5日、朝日新聞大阪本社で行われた濱田青陵賞運営協議会並びに選考委員会において、第32回濱田青陵賞の受賞者が、東京大学総合研究博物館教授 米田穣氏に決定しました。

授賞式式典は9月22日(日曜日)午後1時から岸和田市立文化会館(マドカホール)で開催予定です。
※同日、記念シンポジウムを開催予定(内容については未定)です。

詳細

受賞者プロフィール

 受賞者氏名

米田 穣(よねだ みのる)
東京大学総合研究博物館教授

米田穣氏の写真

 経歴

1995年 東京大学大学院理学系研究科人類学専攻中退(博士〈理学〉)
1995年 国立環境研究所研究員・主任研究員
2003年 日本学術振興会特別研究員・オックスフォード大学考古学・美術史研究所研究員
2006年 東京大学新領域創成科学研究科先端生命科学専攻准教授
2012年 東京大学総合研究博物館教授

主な論著 

  • 「食生態にみる縄文文化の多様性」『科学』932 2010

  • 「沖縄先史人の暮らし」『科学』1018 2017(共著)

  • 米田穣・大森貴之・尾嵜大真・柳田裕三「長崎県佐世保市岩下洞穴から出土した縄文早期人骨群の炭素・窒素同位体比と放射性炭素年代」『Anthroplogical Science (Japanese Series) 125(1)』39-47. Doi: 10.1537/asj.170417 2017

  • 「骨考古学からせまる社会の複雑化」『季刊考古学143 ヒトの骨考古学』2018(編著)

  • 「人骨の年代決定」『月刊考古学ジャーナル』709 2018 

授賞理由

【理由】「同位体分析をもちいた考古科学を開拓し、その確立と発展に寄与した」

 受賞者は炭素・窒素同位体比や放射性炭素年代を用いた考古科学を推進し、考古学と人類学の協働を通じて、日本の先史時代研究のみならず、分析方法の開発や海外資料への応用など、数多くの学術的成果をあげている。

 縄文時代の食生活については、全国各地で出土した縄文時代人骨に残存するコラーゲンの炭素・窒素同位体比を測定し、食生活、特にタンパク質源の地域差や時代差について定量的な比較研究を展開してきた。その結果、北海道、本州周辺、沖縄で縄文時代に明確な食生活の違いがあり、その地域差が弥生時代に継続することを明らかにした。従来、弥生時代の水田稲作の受容のあり方がこれら3地域の文化的差異を規定したと考えられてきたが、それと共に、縄文時代の食生活の違いが稲作の受容に影響した可能性が提示された。

 弥生時代の食生活については、水稲による窒素同位体比の上昇が弥生時代人で顕著にみられることを示した。従来、同じC3植物である水稲と堅果類は同位体分析で区別することは困難と考えられてきた。しかし受賞者は、立地や生業を異にするさまざまな弥生時代遺跡の人骨や炭化米の分析、あるいは無施肥での赤米栽培実験などを通じて、水稲利用によって窒素同位体比が変動することを明らかにし、従来の研究の限界を打ち破った。

 古人骨コラーゲンの同位体比分析では、雑穀や海産物の利用を定量的に評価することはできたが、植物と獣肉などの違いを定量的に議論することは不可能であった。受賞者は海洋生態学で開発された新手法を世界に先駆けてヒトの食生活復元に応用し、両者を識別する手法を開発した。コラーゲンを構成する個別のアミノ酸の窒素同位体比を用いたこの手法は、ヒトの食物連鎖の位置を正確に推定することが可能である。その結果、長野県の縄文時代人骨では、縄文時代早期から中・後期まで高い肉食率が持続することが示され、いわゆる縄文農耕論に一石を投ずることとなった。

 この手法は少量の水産物利用の検出にも優れており、ティグリス川上流域の初期農耕民において水産物が重要な食料資源であったことが明らかとなった。また、新石器時代後期の西アジアの農耕民では、集団内で異なる家畜を利用したサブグループが共存した可能性を示すことに成功した。これは従来の手法では議論できなかった個人・家族レベルでの生業文化の差異を示す重要な知見と評価されている。

 古人骨を直接年代測定することは加速器質量分析法(Ams)を用いることで1990年代に可能となったが、海産物を利用すると放射性炭素濃度が低い炭素の影響を受けるため、正確な年代が得られないという問題があった(海洋リザーバ年代効果)。海域によって放射性炭素濃度は異なるが、日本周辺については受賞者が初めて評価し、オホーツク海域で800年もの大きなずれがあることが判明した。

 受賞者は多数の古人骨の放射性炭素年代を測定、報告する中で数多くの新知見を学界にもたらしている。古人骨の直接的な年代測定によって層位学的・考古学的情報が付随しない古人骨資料に年代を付与する一連の研究は、学史的資料の資料価値を高め、研究対象として復活させたと評価できる。日本人起源に関する小進化説が拠りどころとした「弥生時代人骨」に実は縄文時代や古墳時代の人骨が多数紛れ込んでいることを発見したのはその好例である。また、縄文時代の風習的抜歯の形式の違いが、基本的には出自の違いではなく時代差であることを解明した研究は縄文社会論に大きく寄与する業績と言える。

 その他、幼児骨の同位体分析から過去の授乳期間を推定する新手法の開発、歯エナメル質の酸素・ストロンチウム同位体比を用いたヒトや動物の移住の復元等々、受賞者が先導した考古科学の技術的革新は枚挙にいとまがない。学問の垣根を取り払い、縦横無尽に対象を広げるその研究は、濱田青陵博士の方法に一脈通ずるものがあり、高く評価される。

以上のことから、濱田青陵賞選考委員会は、米田穣氏を第32回濱田青陵賞受賞者として選定するものである。 

濱田青陵賞選考委員長 小林達雄 

 岸和田市文化賞「濱田青陵賞」とは

 濱田青陵賞は、岸和田市にゆかりが深く、我が国考古学の先駆者として偉大な功績を残され、多くの後進を育成された濱田耕作(号 青陵)博士没後50年にあたる1988年に、「岸和田市文化賞条例」に基づき、岸和田市と朝日新聞社とが創設しました。

 博士の業績を称えるとともに、我が国考古学の振興に寄与する目的で、業績のあった新進の研究者や団体を広く選考し表彰するもので、今回で32回目を迎えます。

本件に関する問合せ先

郷土文化課(電話:072-423-9688)