風物百選 89 ぶな林
油彩 竹内康裄
葛城山頂近く、塔原と蕎原、貝塚市にまたがる山林に自生するブナ林は、我が国の南の極限にあたり、天然記念物に指定されています。
春夏秋冬、ブナ林は四季折々の美しい顔を持って、私たち登山者を迎えてくれます。
すっかり落葉した裸木の高いこずえを鳴らして冬の冷たい風が吹きすさび、やがてそれが雪に変わって、山々を真っ白に埋めつくす。白一色のきびしい自然の中に、ブナの喬(きょう)木がそびえ立つ風景は冷厳、かつ身の引き締まる美しさです。
やがて春が訪れて木々がいっせいに芽を吹き、いっきに新緑の季節がやって来る五月ごろには、淡緑色の花が咲き、青葉が山をおおって涼しい木陰を作り、楽しい散策道となります。木漏れ日が登山者の顔に影をおとし、青葉の陰影がひとしお美しい。
そして秋の紅葉を迎えます。ブナ林の下の雑木もところどころ色づいて、全山、錦(にしき)を織りなす秋の山の美しさはたとえようもありません。木々に絡んだつる草やススキ穂をかき分けながら山の細道を歩くと、カサカサと落葉を踏む音がして、高いこずえの上に真っ青に澄んだ秋空が見えがくれします。
やがて木枯らしが吹きすさび、細い木の枝にしがみついていた枯れ葉がふるい落とされ、冬への移行がはじまるのです。
ブナの木は建築・器具・薪炭用に、またパルプ材ともなり、果実は食用、製油用にもなるそうです。
文 石井和子
資料
葛城山頂近く、塔原町と蕎原(貝塚市)にまたがる約800アールのブナ純粋林。比較的低い地帯にある雄大な自然林で、わが国の南限になる。大正12年3月、天然記念物として国から指定されている。
交通
バス停塔原から南南東2,800メートル
この「岸和田風物百選」は、岸和田市の市制60周年記念事業の一つとして昭和58年(1983年)に制作されました。
そのため、内容が古くなっている部分もありますが、交通手段を除いて、原本に忠実に再現しています。これは、実際に現地を訪れた際に、この間の時の移り変わりを感じていただければとの考えからです。
