風物百選 83 白原峠

印刷用ページを表示する 2009年3月3日掲載

白原峠のきりえきりえ 鹿沼保正

 「あの山越えたら…」と思いつづけ、眺めつづけて旅をしたであろう昔の人たち。白原峠にも、石碑が残されている。

右道 伊勢大神宮 三拾六里
大和當麻寺 九里拾五丁
愼尾寺二里二拾七丁
左道 大和信貴山 九里三拾丁

 など、すべて神社やお寺への道しるべである。旅人の多くは、思い思いの寺社に参けいする人人であったと思われる。
 昔はこの峠にも茶店があり、さぞかしにぎわったことであったろう。参拝から帰る人、これから参る人、荷物を背負った商いの人、だれもがみな、この峠で上りの疲れをいやし、これからの下り道にほっとひと息つく……そんな峠の茶屋がしのばれる。
 秋の一日、内畑側より歩いてみる。急な上り坂も舗装され、自動車やオートバイがスイスイと通り過ぎ、私を追い越していく。
 昔の旅といえば、歩くことであった。ひたすら歩き続ける中で、人々は道端の小さな花に目をやり、小川のせせらぎや鳥の声にも耳をすまし、次から次へと移りゆく村々の姿にも心をとめた。つらい、苦しい旅の中にも、小さな楽しさをみつけながら歩いたことだろう。昔の風情は、もう味わえないのであろうか。
 峠でしばらく休む。やがて、高校生の三人づれが上着を脱ぎ、汗をふきふき自転車を押しながら上がって来る。岸和田の町にも、まだこんな光景が見られるのである。峠にはさわやかな笑みが残り、勢いづいた車輪が遠ざかる。峠の一日も終わるころ、右手に新聞の包みを抱え、白い運動靴に足どりも軽く、峠の家々にニュースを届ける初老の人の姿があった。
 これまでに、無数の人が各々の思いを抱いて、この白原峠を越えたことであろう。時の流れを感じつつも、峠は静かに息づいている。

文 寺地洋子

資料

 内畑から河合へ、国道170号線を登りつめると、そこが白原峠である。視界がひらけて、右手に神於寺、その向う河合町の左手前方に、鍋山が見え、水間への道が、その傍をカーブして行くのが見える。

交通

 バス停白原下車


 この「岸和田風物百選」は、岸和田市の市制60周年記念事業の一つとして昭和58年(1983年)に制作されました。

 そのため、内容が古くなっている部分もありますが、交通手段を除いて、原本に忠実に再現しています。これは、実際に現地を訪れた際に、この間の時の移り変わりを感じていただければとの考えからです。