風物百選 82 神於山からの遠望

印刷用ページを表示する 2009年3月3日掲載

神於山からの遠望の油彩油彩 黒瀬恵子

 「岸和田を見るなら、神於山がいちばん」。56年3月、岸和田に越してきたとき、だれかがそう教えてくれた。
 仕事に追われ、なかなか機会がなかったが、ようやく半年後、出かける気になった。
 道は、神於町からとった。古い家並みの続く急な坂道を、神於寺まで上ると、そこからは山道。ミカン畑ごしに河合、神於、上白原あたりの集落が見える。三十分も歩けば、もう頂上だ。
 視界が一気に広がる。温州みかんをたわわに実らせたミカン畑。トンボ池、大池、隣徳池に囲まれた緑と太陽の丘。その向こうには、奈良時代、行基が築いたと伝えられる久米田池の広い水面が光っている。遠くに岸和田の市街地と大阪湾。
 野鳥観察用に、と持参したペンタックスの双眼鏡を向けると、岸和田城天守閣がくっきりと見える。そのまま、うねうねと続くいらかをたどれば、光る海。古くは茅淳(ちぬ)の海と呼ばれたおだやかな波のきらめきが印象的だ。風があるせいか、対岸の神戸の街や淡路島、それに沖を行く船までが見える。「岸和田を見るなら神於山」という言葉にウソはなかった。
 以来、この山がすっかり気に入った。親子ハイキング、オリエンテーリング大会、家族そろっての山歩きと、機会を見つけては、せっせと通った。
 そのたびに新しい発見があった。初めて見たミカンの白い花と、そのかぐわしい香り。手入れの行き届いた竹ヤブの下で、一息入れたときに知った音楽的な竹の葉のそよぎ。いたるところにあるため池を見るたびに、この土地が古くから高度に利用されてきた歴史を思った。
 神於山に上り、山道を歩くたびに、考えるヒントがあった。ぼくにとって、この山は岸和田を「見る」だけでなく「知る」山であった。

文 石井晃

資料

 市域のほぼ中心にあって、和泉山脈や、西方には淡路島一円も眺めることができる。山頂は平らで、「城見台」・「国見台」という眺望台がある。中腹には、桜やカエデの老木が多く、大木の間に堂塔の旧跡が点々としている。標高296.4メートル。

交通

 バス停白原から北600メートル


 この「岸和田風物百選」は、岸和田市の市制60周年記念事業の一つとして昭和58年(1983年)に制作されました。

 そのため、内容が古くなっている部分もありますが、交通手段を除いて、原本に忠実に再現しています。これは、実際に現地を訪れた際に、この間の時の移り変わりを感じていただければとの考えからです。