風物百選 81 みかん畑
油彩 前田龍三
ミカン畑の風景は、四季折々の表情を示す。
春。ミカンの白い花が一斉に咲き誇る。かんきつ類特有の甘ずっぱい香りは、柔らかな風に乗って、起伏に富んだ丘陵地一帯をやさしく包みこむ。
夏。ミカンの木々は、みずみずしい実をつける。ミカン畑はしっとりとした深緑色だ。
秋。早生(わせ)ミカンが色づき始める。
初冬。中生(なかて)、晩生ミカンも色づき、山手一面が黄金色に輝く。ミカン畑がいちばん活気にあふれる風景である。
だが、このようなミカン畑の四季は、ミカン農家の労働に支えられてこそ、醸し出される情景なのだ。駆け足で農作業を追うと…春の防虫剤散布。夏の水まきと摘果(てっか)作業。そして秋からは、手作業に依る取り入れ開始。さらに貯蔵するため中生、晩生ミカンに防腐剤を散布し、年末までにすべての取り入れをすませ、年が明ければ剪定(せんてい)作業。こうしてミカン農家の一年が終わる。
きつい農作業のほかにも、ミカン農家の悩みはつきない。ひとつは、オレンジなどの貿易自由化等による採算性の低下、もうひとつは、後継者となる若者たちの農家離れである。この文章をつづる私もまた、ミカン農家の長男として生まれながら、ミカン畑を両親に任せ、サラリーマン生活を送っている。
岸和田のミカン畑はいま、「甘ずっぱい香り」と「不透明な見通し」のはざまの中で、大きな転換期にさしかかっている。
文 松本英則
資料
徳川時代中期寛政のころ、岸和田でもみかんが栽培されるようになった。現在、神於山を中心に、みかん畑が展開している。
この「岸和田風物百選」は、岸和田市の市制60周年記念事業の一つとして昭和58年(1983年)に制作されました。
そのため、内容が古くなっている部分もありますが、交通手段を除いて、原本に忠実に再現しています。これは、実際に現地を訪れた際に、この間の時の移り変わりを感じていただければとの考えからです。
