風物百選 40 夜疑神社
油彩 吉田 清
市の北端にある住宅地の山手に、こんもりした森があった。春には森の周りの田んぼがレンゲのじゅうたんとなり、初夏の空にこいのぼりが泳ぎ、秋は野鳥が柿の実をつついた。その一つ一つの部分を切り取って額に入れたいと思うほど、絵になる風景だった。こんもりした森の中に神社があった。石の鳥居をくぐって参道を行くと、長い歳月を思わせる社があり、雨ごいの祈りを書きこんだ大絵馬が掛けられてあった。境内には石で造られた牛が横になっており、優しい目をして参拝者を眺めていた。社務所の前にある池では亀が甲羅を干していた。
初もうで、お宮参り、七五三と、娘たちのアルバムに、夜疑の神社の写真が数多く貼られてある。お宮参りのお祓いの鈴の音で泣いた娘といっしょに、虫採り、ドングリ拾いにと出かけた神社の森には、大きく枝を張った幹の太い木がすっくとそびえ、見上げると空はほんの少ししか見えなかった。なぜかツバキの木が多く、その実を初めて見たのもこの森だった。
岸和田に引っ越してから親しんだこの神社も森も、年ごとに少しずつ変わっていった。森の木々も枝を落としてさっぱりとし、ロープを張り回らせて道を作り、落ち葉もきれいに掃き寄せられ、雨ごいの絵馬が掛かっていた社も建て替えられた。鮮やかな朱色の本殿が日に映えてまぶしく光り、絵馬も今は見えなくなっている。落ち葉を踏んで歩いたころと違って、あまり美しく様変わりすると、なぜか近よりがたい。神社の森で拾ったツバキの実が家の庭で芽を出して、やっと木らしくなったころ、「お母さん、お宮さんに行こうよ、彼岸花が咲いてるよ…」と、娘が呼びかけた。
文 中野喜代子
資料
延喜式内社、国内神名帳に従五位上八木社とある。往時、氏子は唐臼を使用できないとの伝承があった。社前の雨渕をさらえると、雨乞いに効果があることで知られる。津田雲渓の筆による絵馬は、昭和34年8月、市文化財に指定されている。
交通
バス停中央公園前から南西500メートル
この「岸和田風物百選」は、岸和田市の市制60周年記念事業の一つとして昭和58年(1983年)に制作されました。
そのため、内容が古くなっている部分もありますが、交通手段を除いて、原本に忠実に再現しています。これは、実際に現地を訪れた際に、この間の時の移り変わりを感じていただければとの考えからです。
