風物百選 36 春木のまちなみ

印刷用ページを表示する 2009年3月3日掲載

春木のまちなみの油彩染色 小南とよ子

 南海春木駅から西に進み、府道堺阪南線(旧国道二六号線)を渡って西へ下ると、紀州街道に出ます。近くに浄土宗の大寺、西福寺があります。その寺の西側一帯が春木大小路町で、春木の中心部です。
 今、この辺りの風景を思い出すと大変懐かしい。春木の浜に夕日が沈むころ、水面に遊ぶトビウオやイワシを取るトンビ、砂浜に打ち上げられた雑魚を拾うカラスなどの鳥が、近くの寺や神社の森のねぐらに帰ります。夕焼け小焼けを歌いながら家路に向かう子供たちの姿が、昔この辺りを歩いた私の脳裏にまだ生き生きとよみがえってきます。
 その昔、日本人のほとんどは木の家に住み、土塀と前栽に囲まれた暮らしをしていました。現代の住宅は、鉄やコンクリートで基礎をして、いろいろな新建材を使用しています。一方で私たちは、木のもつ独特な情緒を愛しつづけています。自然の懐で百年以上年輪を重ねてきた木が無言のうちに与える重厚さと、温かさと香り。そんな家々が点在するこの辺りが、今でも長年生きつづけた住まいの魅力を感じさせてくれます。
 生活様式がどんなに洋風化しても、昔の民家の様式を今の住まいの中に息づかせたいと思います。緑の多い環境と相まって、広い玄関と台所、天井に張りめぐらされた太い梁が伝統美の空間を見事にかもし出しており、心が落ち着きます。木枯らしの吹く朝、ほうきを持つ老婆が、落ち葉を掃き寄せ、燃やしている姿は、一幅の絵にしてみたい風物です。
 身勝手な都会人が自然保護を口にするだけでは、古い町並みは昔日の面影を失うのではないかと危ぶまれます。地域住民にとって、現実の生活である経済性や便利さも大事なことでしょうが、春木にあって最も民家の名残りをとどめている大小路周辺の町並みを保存する配慮は、町の皆様方で考えていかねばならないと思います。春木の浜にたそがれる暮色は、消え去ろうとしている自然の残影を象徴しているかのようです。

文 杉原金次

資料

 長屋門・土塀・建て物の妻面・駒寄せなどによって構成され、T字型に交差する街路が特色である。近年の改築により調和を乱されつつある反面、伝統的な意匠をもつ長屋門などの新築もみられ、景観に対する配慮がうかがえる。

交通

南海本線春木駅下車。徒歩15分


 この「岸和田風物百選」は、岸和田市の市制60周年記念事業の一つとして昭和58年(1983年)に制作されました。

 そのため、内容が古くなっている部分もありますが、交通手段を除いて、原本に忠実に再現しています。これは、実際に現地を訪れた際に、この間の時の移り変わりを感じていただければとの考えからです。