風物百選 34 岸和田一文字

印刷用ページを表示する 2009年3月3日掲載

岸和田一文字の油彩油彩 小山和夫

 一文字のことを「くずれ波止」と呼んでいた。文字どおり、石を無造作に積み上げたピラミッド型の簡単な石積みのもので、砂浜から150メートル~200メートルほど沖に突き出た防波堤であった。満潮時にはほとんど海水をかぶり、一本の黒ぐろとした帯のようなものが沈んでいるという感じであった。
 冬の西風による波をさえぎるためのものだが、石積みが長期にわたる風潮のため徐々にくずれて沈んでいくと、また石を積み上げる。そんなことを繰り返しながら、だんだんと石のすそを広げていった。アオサがつき、ノリがつき、カキがつく。いつのまにか小魚やカニの絶好の住み場所となっていく。手袋をはめて石の間に手を入れると、カニが取れる。少し潜ると魚が取れる。そのころの砂浜は広く、長くつづいていた。海水浴場として人々は夏を楽しんだ。冬の潮さいも子守唄となって聞こえてくる。一年中、その時どきの風物を楽しませてくれたものである。
 昭和初期の一文字はこうして港の外海を守りながら、波止としての使命を果たしていた。現在のようによく整備されるまでには、ずいぶんながい年月が費やされている。
 地元洋画家仲村氏もこの一文字「くずれ波止」をこよなく愛された一人である。潜ることが好きで、いつもこの一文字の石積みに張りついていたことを思い出す。そのころの一文字と、現在の一文字とを重ね合わせてみて、どうしても重なり合わない。港の主体は北に移り、昔の気負いがないことに、一抹の寂しさを覚える。それでも、晴れた日の夜の一文字から見える六甲山や摩耶山の灯がすばらしく美しい。その一文字に、昔と変わらない潮が今日も満ちてくる。

文 西出仁三郎

資料

 阪南港岸和田新西防波堤が正式名称、岸和田一文字とよばれ、木材港の航路にそって北へ伸びている。渡船が出ている。

交通

 阪神高速4号湾岸線西1,700メートル


 この「岸和田風物百選」は、岸和田市の市制60周年記念事業の一つとして昭和58年(1983年)に制作されました。

 そのため、内容が古くなっている部分もありますが、交通手段を除いて、原本に忠実に再現しています。これは、実際に現地を訪れた際に、この間の時の移り変わりを感じていただければとの考えからです。