風物百選 32 木材港
油彩 上村一朗
突堤に囲まれた海はきちんと区切られ、一画一画に原木がぎっしりとひしめき合っている。その間を小さな舟が行き来していた。波がとろりと木の肌をなでた。とびぐちを持った木遣りの人が、貨物船から降ろした木材を、透き間ができないように並べかえている。その人たちは揺れる丸太の上を平気な顔をして、陸の上と同じように作業をしていた。木遣り節はこういうときに歌うのであろう。その日は声が聞こえなかった。でも潮風にのって、ふと歌声が聞こえてくるような錯覚を抱かせる風景である。
目の前にある木を数えてみた。30本くらいまでは読めた。そのあとは目が届かない。木の上に降りてぴょんぴょん飛びながら数えたら、さぞ愉快だろうと思ってもみた。これらの木材は一体、どこから送ってくるのだろうか。南洋方面か、カナダの方からか。工場で仕事をしていた人に聞いてみた。
「この木は何ですか」
「ラワンですよ」
「こっちは?」
「カナダの米松です」
「これをどうするのですか」
「ベニヤ板にするのです」
「買い付けは? 岸和田市もしますか」
「合板会社です。会社の景気によって、多くなったり……」
「中小企業も買い付けします?直接に」
「大手会社から、分けてもらうのです」
「お忙しいときにありがとうございました」
「暇だからかまいませんよ」
先ほどまで作業をしていた木遣りの人たちがいなくなった。海は木で埋め立てられたようになった。ここが木場だ、底力のある、地味なようでいきな男の職場だ、と思いながら帰途についた。
文 井上操子
資料
昭和37年8月、木材コンビナートの建設構想が出され、昭和38年2月起工式。昭和41年11月、東洋一を誇る木材コンビナートが完成した。「海から宝がやってくる」とのキャッチフレーズにより、府事業として実施された。
交通
阪神高速4号湾岸線北インターすぐ
この「岸和田風物百選」は、岸和田市の市制60周年記念事業の一つとして昭和58年(1983年)に制作されました。
そのため、内容が古くなっている部分もありますが、交通手段を除いて、原本に忠実に再現しています。これは、実際に現地を訪れた際に、この間の時の移り変わりを感じていただければとの考えからです。
