風物百選 26 酒蔵の並ぶ路地
印刷用ページを表示する 2009年3月3日掲載
油彩 渡辺光
紀州街道沿いの並松町の菊右衛門橋のたもとに、二軒の造り酒屋が肩を並べるように建っている。周囲のこざっぱりとした商店の家並みと土蔵がマッチしていて、よくよく注意して歩かないと通り過ぎてしまいそうだ。
蔵は土を厚く塗ってあり、幾分の崩れをみせながらも端正なたたずまいを保っている。一世紀に渡る造り酒屋の土蔵と梁や地窓が風雪に耐え、一段と力強さを誇っているかのようだ。
近畿での清酒の産地は、伊丹や池田が最初であり、やがて灘五郷へと移っていった。岸和田の近辺も和泉の灘と呼ぶくらい酒造りが盛んな土地であった。酒には「いい水」「いい米」、そして酒をいとおしむ「一徹さ」を必要とする。幸い岸和田近辺は、並松町のところで土地が隆起して良質な地下水に恵まれていた。それをもとに酒造業がおこったのであろう。
店の前に立つと、格子戸がきっちりはまった大きな屋敷の軒先に「酒」の看板がひときわ目についた。ひっそりとした店のなかに入ると、ひやっとした空気と一緒に酒の香りが漂い、妙にのどが渇くのを覚える。毎年、師走のころには、寒造りの芳じゅんな香りが蔵中に満ち、杜氏の歌が菊右衛門橋の付近にも流れてくる。
新春になると蔵元の軒先に真新しい杉玉をつるす。新酒の誕生を知らせるためであるという。
文 赤尾卓治
交通
南海本線岸和田駅から北へ700メートル
この「岸和田風物百選」は、岸和田市の市制60周年記念事業の一つとして昭和58年(1983年)に制作されました。
そのため、内容が古くなっている部分もありますが、交通手段を除いて、原本に忠実に再現しています。これは、実際に現地を訪れた際に、この間の時の移り変わりを感じていただければとの考えからです。
